東京高等裁判所 昭和52年(行コ)19号 判決
三 右に述べたところによれば、市街地再開発事業は、都道府県知事の都市計画決定(本件都市計画決定はこれに当る。)により当該事業の種類、名称、施行区域及びその面積が定められ、次に、施行者たる市町村が定める事業計画により施行地区及び設計の概要が定められ、その上で、右市町村において施行地区ごとに定める権利変換計画に基づいて権利変換に関する処分が行なわれる、という順序で進展することになる。従って、市街地再開発事業は、これを全体として見れば、施行区域内の土地、建築物の所有者等の権利に重大な変動をもたらすものであるということができる。
しかしながら、右都市計画決定は、それ自体としては、特定の地域について都市計画として市街地再開発事業を施行することを決め、爾後進展する手続の基本となる事項を定めるにすぎないものである。そして、それはもとより特定の個人を対象としてなされるものではなく、いわゆる一般処分たる性質を有するものであって、この決定と同時に、総括図、計画図及び計画書において都市計画が表示されるとはいえ、それも計画の大体の輪郭を示すに止まり(都市計画法一四条二項、同法施行規則九条)、これによっても当該事業の施行の結果施行区域内の関係権利者の権利義務等にいかなる変動が生ずることになるかが具体的に定められるものではない。従って、その意味においては、右都市計画決定は、個人の法律上の地位ないし権利義務に影響を与えるような性質のものではないというべきであり、また、特に取消訴訟を提起しうる旨の法律の規定も存しないから、それは取消訴訟の対象となる処分には当らないといわなければならない。
この点に関し、控訴人は、都市計画として市街地再開発事業の施行区域が決定されると、施行者たる市町村はこれに基づいて施行規程及び事業計画を定め、その後の手続も特段の事情がないかぎり機械的に進められる結果、施行区域内の土地、建物の権利者は、権利変換処分等によってその権利に重大な影響を受けることが予想されるので、都市計画決定についても取消訴訟が認められるべきであると主張する。しかしながら、事業計画や権利変換計画が機械的に定められるものでないことは、その決定の手続や基準を定めた都市再開発法の諸規定(特に、事業計画については五一条一項、五三条、権利変換計画については七二条一項、七四条、八三条、八四条等参照)に照らしても明らかである。のみならず、右都市計画決定が爾後なされるべき具体的権利変動を目的とする処分の基礎となるというだけの理由で取消訴訟の対象となることを肯定することはできない。けだし、本件のように行政庁の複数の行為が一連の手続を構成する場合においても、行政事件訴訟法にいう取消訴訟の対象となる処分は、法律に別段の定めがないかぎり、その一連の手続を構成する個々の行為のうち、個人の権利義務に直接関係のあるものに限られる(ただし、その行為の取消を求める訴訟においては、当該行為の前提となった行為の瑕疵を取消事由として主張することができる。)と解すべきであるからである。そして、このように解しても、都市計画決定が違法であるとする者は、後日その者が権利変換処分等の具体的権利変動を目的とする処分を受けた段階において、当該処分の取消を求める訴を提起し、その訴訟において、その処分の前提となった右都市計画決定の瑕疵を主張することができるものであるから、違法な行為による権利の侵害に対する救済に欠けることにはならないというべきである。
四 次に、右都市計画決定が告示されると、その施行区域内においては、建築行為等の規制が実施される。すなわち、建築物の建築をするには、原則として、都道府県知事の許可を要することとなり(都市計画法五三条一項)、その許可を申請しても、不許可となる公算が強いのみならず(都市計画法五四条、五五条参照)、これに違反すれば、建設大臣又は都道府県知事から必要な是正措置を命ぜられ、その命令の違反については、罰則が設けられている(都市計画法八一条一項、九一条)。また、右告示から一定期間を経た後は、土地の有償譲渡についても、事前に都道府県知事への届出を要することとなり、都道府県知事はその後一定期間内にする通知によってその土地を買い取ることができるものとされ、その違反についても、過料の制裁の規定が設けられている(都市計画法五七条、九五条一号、三号)。これらの制限は、当該事業の円滑な遂行に対する障害を除去し、あるいは当該事業の遂行を容易にするための必要に基づき法律により定められているものではあるが、右都市計画決定の告示がなされることによってその適用を見ることになるのであるから、その面から見れば、右都市計画決定の法律上の効果であるということができる。そして、控訴人は、右建築行為等の制限は特定の個人が直接的かつ現在的に受けるものであり、それ自体として完結的なものであるから、右都市計画決定は取消訴訟の対象となる処分であると主張する。
しかしながら、右都市計画決定は、前述のように、特定の個人を対象とするものではなく、いわゆる一般処分たる性質を有するものであり、かつ、その効果として生ずる建築行為等の制限は、それ自体としては建築物の建築又は土地の有償譲渡につき行政庁に許可の申請又は事前の届出をすることを要することとしたものであって、その段階では行政庁の態度は未定であり、具体的には、その申請又は届出を受けた行政庁のなす一定の行為(不許可処分又は買取りの通知)によって制限の効果が発生するものであることから考えると、右都市計画決定による建築行為等の制限は、なお一般的、抽象的な性質のものといわなければならない。従って、右都市計画決定がなされたというだけでは、いまだ具体的事件性に欠け、これをもって個人の法律上の地位ないし権利義務を直接制限するものであるとして取消訴訟の対象とすることはできないというべきである。
なお、控訴人は、当審において付加した主張の一の3の(1)、(2)の事例を挙げ、本件都市計画決定により現に具体的な不利益を受けていると主張するが、右(1)の事例においては、建築の許可を申請し、不許可処分を受けた場合にはその処分の取消を求める訴を提起し、その訴訟において本件都市計画決定の瑕疵を主張することができるし、また、右(2)の事例においては、不許可処分を受けた訴外双木において右同様の訴訟の提起及び主張をなしうるのであるから、仮りに本件都市計画決定が違法であるとしても、救済の方法がないものではない。
その他、控訴人は本件都市計画決定以後訴外田無市の職員による立入測量調査等を受け、そのため直接の被害を被っていると主張するが、かかる測量、調査の行為は、法律による一般的制限として受忍すべきものであり、なお、土地の占有者は正当な理由があればこれを拒みうるし、損失を受けた場合にはその補償を求めうるのであるから、右主張もまた前記判断を左右するものではない。
(川島 小堀 小川)